高齢者講習の根幹となる目的が揺らいでいる。1998年に実施され始めた当初はあくまでも「教育の論理」に基づき、高齢ドライバー本人に対して加齢に伴う運転能力の低下を自覚させる機会と位置付けていた。すなわち、講習現場で実施される種々の検査結果に拘わらず、免許の更新が大前提とされた。これは、国民皆免許時代に伴い、自動車運転そのものが決して難しいことではなく、誰にでもできるという考え方に立っている。したがって、排除することなく教育を重視する心理適性に基づき講習が組み立てられていた。
しかし、2000年代に入り、認知症ドライバーによる事故が目につくようになると、2009年から75歳以上ドライバーの免許更新時に認知症簡易検査を課し、一定の条件を付けて免許の更新を認めなくなった。すなわち、医学適性に基づく「排除の論理」が一部導入された。そして、今回の2015年改正道交法の衆議院通過でそれが一層強まった。運転適性を欠く人による自動車運転が増えてきたからである。ちなみに、定期航空パイロットの免許に関しては、6か月に一度、厳しい基準で身体検査が行われ、これに合格しないと免許が更新されず、基本的に排除の論理で免許制度が運用されている。
自動車運転に関しては、教育を重視するという当初の講習目的は依然として残っており、現在は2つの論理が混在している。そのため現場は混乱している。(所正文)