高速道路の逆走事故が年間200件程度発生しており、その7割が65歳以上の高齢ドライバーによって起こされている。そのため、政府は2015年3月10日に75歳以上の高齢ドライバーに対する認知機能検査を強化する道路交通法改正案を閣議決定した。そして、同年中の国会で成立させ、2年以内での施行をめざすことになった。
現行システムでは、検査結果によって第1分類(認知症の疑いあり)とされ、なおかつ過去1年以内に交通違反があった人のみ専門医の診断が義務づけられる。そして、認知症と診断されると免許が取り消された。しかし、改正案では、第1分類となった全員に専門医の診断が義務づけられる。また、第2分類(認知機能低下の疑いあり)や第3分類(認知機能低下の疑いなし)でも認知症が疑われる交通違反を起こした場合には臨時検査が義務づけられ、そこで第1分類に入ると専門医の診断を経て免許が取り消される。
高齢ドライバー激増時代に突入し、認知症を患っても運転を継続している人が少なくない。したがって、この決定は世論から一定の支持を得ている。しかし、問題がないわけでもない。大きく次の3点を指摘したい。
(1)第1分類に入る人は検査受診者の2%強であり、今後の高齢ドライバー激増を考慮すれば実人数は大幅増加する。そのため、全員に専門医の診断が義務づけられると医師の確保が困難になる。専門医の範囲拡大(例えば内科医まで)などが検討課題となる。
(2)現行検査はアルツハイマー型認知症のみをターゲットとした検査であり、他の認知症については捉えられない。とりわけ、交通事故と密接な関わりがあるとされるピック病が捉えられないことは依然として問題として残る。
(3)高齢者にとって運転免許の所有は自立の象徴である。車の運転ができるということが家族の中で自分の存在意義に関わることも少なくない。したがって、運転断念後のケアを家族だけに負わせることは難しく、生活指導を含めたカウンセラー役の養成を社会全体で考えていく必要がある。(所正文)